入会する
INTERVIEW 2025.06.05

東京ヴェルディが描く共生社会への道ーー障がいの有無を超えて、すべての人が楽しめる社会へ

「サッカークラブ」と聞くと、多くの人が思い浮かべるのは競技の勝敗やスター選手たちの活躍でしょう。しかし、東京ヴェルディはその枠にとどまりません。サッカーという枠を超え、誰もが参加し、楽しめるスポーツの形を模索し続けています。そんな東京ヴェルディ株式会社のスクール・SDGsグループ マネージャー奈良彬さんにお話を伺いました。

サッカーだけじゃない東京ヴェルディの多彩な展開

吉田
東京ヴェルディというと、やはりサッカーのイメージが強いですが、改めてどんなクラブなのか教えていただけますか?
奈良さん
東京ヴェルディは、1969年に読売サッカークラブとして創設された、Jリーグ所属のクラブです。
吉田
そうなんですね。長い歴史があるんですね。
奈良さん
そうなんです。そして現在は、サッカーだけではなく、チアダンスや野球といった16種目のアマチュアスポーツチームを持つ総合スポーツクラブへと進化しています。
吉田
それは意外でした!東京ヴェルディといえばサッカーのイメージが強かったので、驚きです。
奈良さん
よく言われます(笑)多くの方がサッカーだけと思っていらっしゃるので、そういった意味でも私たちの活動をもっと知っていただきたいですね。

スクール・SDGsグループが目指す「誰も取り残さない」スポーツ環境

吉田
奈良さんが所属されている「スクール・SDGsグループ」とは、どんなことをされている部署ですか?
奈良さん
部署名にある通りサッカースクールの運営が柱ですが、それと並行してSDGsの理念に沿った社会貢献活動も展開しています。特に、障がいのある方と一緒にスポーツを楽しむ活動や、学校訪問を通じた障がい理解の促進などに力を入れています。
吉田
このような活動はいつ頃から始まったのでしょうか?
奈良さん
本格的に始まったのは2015年です。東京オリンピック・パラリンピックの招致が決まり、行政が障がい者スポーツに力を入れ始めたタイミングで、日野市から「障がい者スポーツ事業を一緒にできないか」と声をかけていただいたのが始まりです。そこから本格的に活動がスタートしました。
吉田
行政との連携からスタートしたんですね。その活動の中で特に力を入れているイベントなどはありますか?
奈良さん
特に大事にしているのが、特別支援学校を卒業した後に運動の機会が減ってしまう障がいのある方々に向けたスポーツ教室です。月に1回から多い市区では3~4回、定期的に開催していて、コーチと一緒に無理なくスポーツを楽しんでもらう場を提供しています。
吉田
そういった方々にとっては、継続的に参加できる場ってとても大きな存在ですよね。
奈良さん
本当にそう思います。私たちのイベントでは、厳しいトレーニングではなく、「楽しい」「笑える」時間を大切にしています。コーチが冗談を言ったり、和やかな雰囲気の中で、自然と体を動かす流れを作っています。感覚的には、スポーツが2割、コミュニケーションが8割というくらい(笑)
吉田
まずは“楽しい”と思ってもらうことが、継続の一番のきっかけになりますよね。
奈良さん
まさにその通りです。スポーツの敷居を下げて、日常の中に自然と入り込んでいくようなスタイルを目指しています。

8つの自治体とJリーグ初の「障がい者スポーツ専門コーチ」

吉田
現在は、どのような地域で活動されているんでしょうか?
奈良さん
渋谷区をはじめ、北区、足立区、文京区、日野市、立川市、多摩市、稲城市と、合計8つの自治体と通年で連携しています。それぞれの地域で定期的な活動を行っていて、年間の回数は学校訪問なども含めると300回近くになりますね。
吉田
それはすごい数ですね!もう、ほぼ毎日どこかで活動されている感じですか?
奈良さん
はい、まさにそんな感じです。私自身は全部に同行できませんが、コーチたちは毎日のように現場に出て、地域の方々と一緒にスポーツを楽しんでいます。
吉田
そのコーチの方々の中には、「障がい者スポーツ専門コーチ」という特別な契約の方もいらっしゃると聞きました。
奈良さん
そうなんです。中村一昭(なかむら・かずあき)コーチというベテランの指導者がいるのですが、「障がい者スポーツ専門コーチ」という肩書きで契約を結んでいます。この肩書きでの契約は、Jリーグクラブではおそらく初のケースだと思います。
吉田
Jリーグ初なんですね。それだけ専門性が高いということですよね。
奈良さん
中村コーチは、東京ヴェルディに来る前の時期も含めて20年以上、障がい者スポーツに関わってきた実績があります。中村コーチのアイディアで、私たちの名刺の点字加工は、障がいのある方々にお仕事として依頼するなど、スポーツ以外の視点での連携も大切にしています。
吉田
細やかな配慮が感じられます。実際のイベントでは、どのようなスポーツを行っているのですか?
奈良さん
前半はチアダンスを行うことが多いですね。東京ヴェルディのチアダンス「VERDY VENUS」のメンバーが講師として参加してくれています。音楽に合わせて体を動かすのは、どなたにも楽しんでいただけますし、雰囲気もすごく明るくなるんです。
吉田
体を動かすって、それだけで気持ちも前向きになりますよね。
奈良さん
そうですね。そして後半は日によって内容が変わります。サッカーをやることもありますが、野球やバスケットボール、玉入れなど、様々なプログラムを誰でも楽しみやすいシンプルな内容で実施することが多いです。
吉田
まさに「できる範囲で楽しむ」ことを重視しているんですね。
奈良さん
ルールや道具に縛られず、誰もが「主役」になれるような工夫を常に考えています。特別な準備がいらないからこそ、参加のハードルが下がると感じています。

学校訪問で育む「障がい理解」

吉田
学校訪問の活動についてもお聞きしたいのですが、どんなことをされているのでしょうか?
奈良さん
主に障がいのない児童・生徒の皆さんに向けて、障がい理解を目的とした授業を行っています。種目はボッチャ、ブラインドフットボール、シッティングバレーボール、デフサッカー、アンプティサッカーと様々です。
吉田
どのような形で体験してもらうのですか?
奈良さん
ボッチャを通した体験の場合は、まず利き手でボールを投げてもらって、その次に「もし利き手が使えなかったら」と想定して反対の手で投げてもらいます。さらに「両手が使えなかったらどうする?」というところで、足を使ってボールを蹴ってもらったり、椅子に座ることで、車いすを使う場合の目線の変化を感じてもらったりします。
吉田
体験を通じて“想像力”を育てる授業ですね。
奈良さん
おっしゃる通りです。障がいのある方の視点を「頭で理解する」だけでなく、「身体で感じる」ことで、子どもたちの中に自然な気づきが生まれるよう工夫しています。ある児童が授業のあと、「実は家族に障がいがある」とコーチに伝えてくれたこともありました。
吉田
それって、すごく大切なことですよね。自然と心を開ける場になってるって、すごく素敵だと思います。
奈良さん
同じ自治体で活動を何年も継続していると、児童たちの間で「去年の授業に参加して楽しかった」とか「上の学年の子から聞いて楽しみにしてた」という声を聞くこともあります。広げることと続けること、どちらも大切にしていきたいと思っています。

観戦の常識を変える、誰もが楽しめる観戦のカタチ

吉田
スポーツを“する”だけじゃなくて、“観る”ための取り組みにも力を入れていると聞きました。
奈良さん
はい。障がいのある方やそのご家族には、実際にスタジアムで観戦することに対して、不安を感じる方も多いんです。段差や音の大きさ、人目が気になるなど、心理的なハードルって意外と高くて。そこで私たちは、「Green Heart Room」という専用スペースを味の素スタジアム内に設けています。
吉田
どのような空間なんですか?
奈良さん
一言で言うと、“自宅のリビングから観戦しているような空間”です。ラグやクッションを用意したり、車いすの動線を考えたり、来場される方の特性に応じて、その日その日で部屋の仕様を変えています。
吉田
どなたにとっても居心地のよい場所を目指しているんですね。
奈良さん
「センサリールーム」だと自閉症・感覚過敏でない方は対象外になってしまうので、さまざまな障がいのある方とそのご家族が安心して観戦できるような“ひらかれた空間”を意識しています。
吉田
そうした配慮があると、観戦に行ってみようかなって思える方もきっと増えますね。
奈良さん
そうなってくれたら本当にうれしいです。そして最近では、このGreen Heart Roomに共感して協賛してくださる企業様も増えてきました。私たちの活動に関心を持ってくださる企業の方がいれば、ぜひお声がけいただきたいです。

まとめ

東京ヴェルディの活動はスポーツ支援にとどまらず、年齢や性別、障がいの有無を超えて、誰もが「一緒にできる」を実感し、「知らなかった世界」を少しずつ広げていく存在となっています。 スポーツを通じて笑い合い、ふれ合い、学び合うその瞬間こそが、“やさしさの輪”を広げていき、知ることから始まる共生の歩みが、これからの“やさしいまち”を育てていく。そう信じたくなる時間でした。

東京ヴェルディ株式会社
担当者名
スクール・SDGsグループ マネージャー 奈良 彬
電話番号
03-3512-1969
Webサイト
https://www.verdy.co.jp/
YouTube
https://www.youtube.com/@verdychannel
Facebook
https://www.facebook.com/verdyofficial/
X(旧Twitter)
https://x.com/TokyoVerdySTAFF
Instagram
https://www.instagram.com/tokyo_verdy/
一覧へ戻る